バイオ関連分析機器(バイオ研究支援機器)の概要

1.はじめに

 過去100年の歴史の中で分析に使用される道具は「理化学機器」という総称で呼ばれてきました。
後に分析機器は理化学機材から分離した言葉として光学、物理学、電気電子工学等を駆使した精密機器として進歩してきた歴史があり、これらを総称して科学研究支援機器とも呼ばれています。

 1980年後半、生命科学(バイオ)の原理を解き明かす道具の開発が推進され、DNA/RNA解析手法開発用機器、蛋白質分離解析手法解析用機器、細胞研究用機器、および代謝物分析手法開発機器の各分野において新しい発想に基づく機器が開発され、バイオ研究支援機器と呼ばれる新市場が創造されてきました。

 当時、東京大学理学部長 和田昭允教授が提唱されたヒトの遺伝子を読み取る手法と装置開発"生命を測る"計画がネーチャー誌に取り上げられて以来、生命科学の基礎原理を解明しようと動き出したのが、米国カリフォルニア工科大学 Leroy Hoods博士による 21世紀を予測するバイオ研究開発ツールの加速でした。従って 1990年代はこれらバイオ研究支援機器の競争の時代と言えますが、多くの先端機器は一部を除いて大半が欧米企業によって市場を占有され、残念ながら国産機器が優位に立ち市場をリードできる状況は見出されませんでした。

 2001年ヒトゲノム解読終了宣言後の10年間、さらに進化したこれらの装置は膨大なデーターを蓄積したまま、2010年代に突入し、IT技術によるインフラ革命と共に新しい世界に向けてさらなる飛躍を遂げようと走り出しています。

 ここでは、生命科学分析の分野を、遺伝子解析:蛋白質解析:細胞研究に焦点を絞り、そこで使用される分析機器を中心に解りやすく概要をまとめました。

2.バイオツールマップ

 バイオ研究支援機器は生命科学における生命メカニズムを解明するための道具としてスタートしました。

 生命体の多くは細胞の集積から成り立ち、細胞中核内に存在する DNAが個々の生物生命の設計図として封じ込められています。従って、まずは遺伝子DNAに書かれたA、T、G、Cの配列を読む装置開発から進められました。

 DNAに書き込まれたコードが指示する蛋白質の解析は、すでにそれ以前からまったく別の角度から、つまり、生命体から目的蛋白質を分離精製する手法開発からスタートした経緯があります。

遺伝子解析は、DNA シーケンサー開発が手がけられ、当初はマキサムギルバード法(化学分解法)が主流でしたが、その後サンガー法(dideoxy-Dye-terminator法:酵素法)が開発され、コスト面と長鎖 DNA対応や簡易方法への改良などの利点から利用が主体となり、さらにキャピラリー電気泳動と4色蛍光法を用いた DNA解析装置が第一世代の機器として開発され、ヒトゲノム解析を完成させることになります。

 この間の大きな貢献であり、また遺伝子解析技術に革命をもたらした発明は、DNAを増幅させるアイデアとして出現した PCR (Polymerization Chain Reaction)装置の実用化でした。サーマルサイクラーと呼ばれる装置と DNAポリメラーゼ(酵素)は、さらに改良され RT-PCR (リアルタイムPCR)や Digital-PCRとして先端診断領域への可能性を有し、さらなる改良が進められています。

 DNAシーケンサーは21世紀に入ると、各手法開発がなされ、ランニングコストの低減および解析時間の短縮される次世代 DNAシーケンサー(NGS)が市場で実用化され2010年以降はこれらの新手法の市場が加速し現在に至っています。

 一方で 1990 年代に半導体製造法がヒントになり開発された DNAマイクロアレイの応用範囲が広がり、DNAのみならず多くの対象化合物の分析をナノレベルで行えるバイオチップの開発と、ナノ流路を工夫した Lab. On a Chipという超小型実験室の開発がされています。

 一方で蛋白質解析は、古くはデキストランゲルを応用した生体高分子ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)からスタートし、精製されて単離するには二次元電気泳動法が用いられました。

 単離された蛋白質はペプチドフラグメントに酵素切断され、個々のペプチドのアミノ酸配列を読み取る方法開発が最初の目的でした。その後、蛋白質のアミノ酸配列を読み取る方法(エドマン分解法)を自動化する装置開発が進められ、蛋白質を酵素消化したペプチドフラグメントを分離するには高速液体クロマトグラフィー(HPLC)逆相法が主流で、分離されたペプチドは個々に分取され、液相プロテインシーケンサーで N末端アミノ酸から切断していきながら分取して、HPLCで確認されました。

 しかしながらこれらの方法はすべてマニュアル法で行われていたため自動化が必要でした。1980年代後半エドマン分解を気相反応で行い SN比を大きく改善し、しかもオンラインHPLCで読み取れる高速高性能気相プロテインシーケンサーの出現により、DNAシーケンサーの実用化に相乗効果をもたらしながら研究スピードが飛躍的に向上しました。

 1996年 MALDI-TOF質量分析計の実用化は、ペプチドや蛋白質解析をさらに進歩させ、後に継続的に発展する HPLC結合型各種質量分析計として LC-MSと呼ばれる装置群類を生み出し、大きな市場としてさらに進化しつつあります。

 DNA解析装置、蛋白質解析装置は其々に分析計測技術を組み合わせ改善されたものですが、あわせて生体内低分子分析は、アミノ酸分析計、GC-MS、LC-MS などが多く使用され、臨床化学や医科学、生化学分野で活躍しています。

 また細胞については細胞挙動を観察するための計測として、蛍光、化学発光などの標識試薬開発が進み、セルソーターやフローサイトメーターなどが市場で実用化されてきました。

 しかしながら、今後の先端診断領域、または新しい創薬開発に進むためには、ひとつの細胞から1分子挙動を計測する分析手法や装置が望まれ、さらには非侵襲、非標識で分析計測できる装置が必要な時代が到来するでしょう。


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図1 主要バイオサイエンス研究支援機器

図1は、現在バイオ研究領域にて使用されている主要機器の種類をまとめたものです。組織、体液、細胞などの生体試料から遺伝子、蛋白質、細胞の個々の方向に向けて分析プロトコールが進みます。

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図2 バイオ研究プロトコール分類(バイオツールマップ)

 図2はバイオツールマップとして個々のプロトコールにて使用される機器、および備品を流れに沿って描いたものです。現在同じ試料(同一試料)から遺伝子解析、蛋白質解析を行い、コンピューター解析や統計解析などの手法論を用いた新たな分析方法論システムバイオロジーという考え方で生命メカニズム解析が行われています。

 これらの技術改革が進めば先端医療に連動した先端高度診断が実現し、蛋白質マーカーや遺伝子診断は新しい医療の中心的存在技術と手法応用になります。しかしながら精密化され高感度化された分析方法は、ヒトサンプルを用いた確定診断に近づくに従いバリデーションも厳しい条件が必要になります。

 この目的を達成するためには、単純に装置仕様を高度化するのみならず、外部からの微細なホコリなどを排除する新たな分析環境を構築する技術や装置、自動化ロボット、素材改革が必要で、前処理から含めソフトやシステムの進歩を共有しながら総合的な仕組み改良が必要とされます。

 これらの技術の多くが、既に長い歴史を有する分析機器および分析計測技術を保有する企業から生まれてくるのは間違いないと確信する次第です。

岩瀬 壽
(一般社団法人日本分析機器工業会 先端診断イノベーション担当アドバイザー
大阪大学 産学連携本部 特任教授)

2014年7月30日 公開