質量分析法

概要

 物質は、原子、原子の集まりの分子、あるいは、それらが電荷を持ったイオンで出来ています。質量分析法は、各種のイオン化法で物質を原子・分子レベルの微細なイオンにし、その質量数と数を測定することにより、物質の同定(何かを探る)や定量(量を測る)を行う方法です。物質を構成する原子・分子を直接ひとつひとつイオン化して測定するため、超高感度な測定、物質同定が可能です。
本編では、質量分析法の原理、その分類とイオン化、得られるデータと情報を解説致します。



1. 質量分析法の原理

 物質は化学的には原子、分子、イオン等などが数多く集まってできている。これらはいずれも質量を持っているが、これら化学物質をイオンの状態にし、その質量を測定することにより原子量/分子量、分子構造、存在量(濃度)、存在形態などを明らかにするのが質量分析法である。また、質量分析法はfg (10-15g)レベルあるいはそれ以下の検出が可能な極めて高感度な手法であることや、分子量が100万におよぶタンパク質なども測定可能なため、その有用性は高く、現在最も広く用いられている分析手法の一つである。測定は質量分析計を用いて行うが、質量分析計は試料導入部、イオン化部(イオン源)、質量分離部(アナライザー)、検出部(検出器)、真空排気部(真空ポンプ)、装置制御・データ処理部(データシステム)等からなる。測定時には、導入した試料をイオン源でイオン化し、気相に存在するイオンにする。イオンは、その質量/電荷比(m/z )によって運動性が異なるため、種々の原理を用いてアナライザーでその分離を行い、検出器を用いて検出する。アナライザーおよび検出器は、イオンが他の粒子に衝突し、分離・検出が損なわれないよう、十分な平均自由行程が確保できる真空度に保たれている。質量分析計で用いられるアナライザーの主な種類とその分離の原理を表1に示した。また、最近は複数のアナライザーを用いて質量分析を行うMS/MS 法も主にLC/MS/MS 法などとして広く用いられるようになっている。

質量分析計の代表的なアナライザーとその原理

 質量分析計で最も普及しているは四重極型アナライザーを装備した装置であるが、双曲面 (円柱での代用も多い)を持つ4本の電極に対し,対向する電極に直流電圧U と交流電圧V を±(U +Vcos ω t)の形で印加すると、高周波四重極電場に入ったイオンは中を振動しながら進む。2U/V を一定に保ち電圧を変化させると、ある瞬間には特定のm/z 値を持つイオンだけが発散せずに四重極を通過し検出器に到達する。これらを模式的に図1に示した。

四重極型アナライザーにおけるイオンの分離と検出の概念図

2. 質量分析法の分類とイオン化

 質量分析法は有機質量分析法と無機質量分析法に大別される。それぞれで用いられるイオン化法は被測定対象成分や実際のアプリケーション、試料形態、質量分析計への試料導入法と深く関わっている。表2にそれぞれの代表的なイオン化法をまとめた。これらイオン化法のうちESI 法とMALDI 法に関連して2002 年、2つのノーベル化学賞が授与されたことは記憶に新しく、質量分析法の科学に関する貢献を改めて認識させるものとなった。 質量分析計への試料導入はGC やHPLC などの分離分析装置を介したものと、直接的に試料を装置に導入するバッチ方式に大別され、前者は主に有機化合物を、後者は無機化合物を対象とした場合に用いられる。図2にイオン化の代表例としてGC/MS の形で用いられる場合の電子イオン化(EI)法の模式図を示した。EI ではイオン化室内に導かれた対象成分が、フィラメントから放出、加速された電子との相互作用によりイオン化が起こる。生成したイオンはイオン源内のイオン光学系で制御され、アナライザーに導かれる。

GC/MSにおけるEI(電子イオン化)の概念図

質量分析法における代表的なイオン化法

3. 質量分析法で得られるデータと情報

 質量分析法では質量スペクトルや特定イオンの生成量由来のデータが得られ、それらを解析することで、情報(結果)を得ることができる。有機及び無機質量分析法別にそれらを表3 にまとめた。

質量分析法で得られるデータと情報

 表3に示したように有機質量分析法では得られた質量スペクトルによる分子構造、分子量推定を含む定性分析(最近はデータベースを利用したライブラリーサーチも充実)、及びGC/MS やLC/MS で得られる各種クロマトグラムデータを用いた定量が主体である。定量分析の方が各種規制に関連したルーチン分析に組み込まれることの多く、多成分同時分析が必要な環境、食品分析を中心に 広く利用されている。無機質量分析法においても、定性、定量の両者が幅広く行われているが、やはり最近はその高感度性、質量選択性を利用した多元素同時分析の実施のしやすさ、各種規制との関連などからICPMS などを中心として定量分析が主体となっている。ただ、いずれの場合も、定性分析は定量分析の基礎となるデータを得るために必ず必要でありその重要性は変わらない。

技術委員会 長谷部 潔
(アジレント・テクノロジー(株))

2011年12月26日 公開

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