電子線マイクロアナライザー(EPMA)の原理と応用

1. はじめに

電子プローブマイクロアナライザー (Electron Probe Micro Analyzer; EPMA) とは、真空中で細く絞られた電子線を固体試料表面に照射し、表面の組織及び形態の観察とミクロンオーダーの局所元素分析を行う分析機器1,2) である。EPMAは、Castaing の1951 年の論文3) で公表されて以来、60 年以上にわたる歴史を持っている。金属材料の分析から始まり、地質鉱物、セラミックス、電子材料、半導体材料、さらには高分子材料や、食品、生体試料など、あらゆる固体試料の微小部分析に欠かせない装置となっている。本稿では、EPMA の原理と特徴、そして応用例について説明する。

EPMA の原理と特徴

EPMA の分析能力は、以下のようにまとめることができる。

  • 固体試料表面から1mm 程度の深さに及ぶ領域でのBe ~ U の元素分析(定性分析)が可能。検出限界は特定の元素に着目すると、数10ppm 程度。
  • 50 nm 程度から最大100 mm 角領域の平均組成分析(定量分析)が可能。定量精度は数% 程度の主成分で、相対誤差1~2% 程度。
  • 数 mm 領域から100 mm 角領域の元素分布分析(面分析)。
  • 数 mm から最大100 mm の線上の元素分布分析(線分析)。

電子線照射によって発生する二次電子、反射電子、特性X 線、オージェ電子、吸収電流、カソードルミネセンスなどである。これらの信号のうち、EPMA は特性X 線を計測することにより元素分析を行う。特性X 線とは、入射電子が試料を構成する原子の軌道電子を原子外に弾き出し、空になった軌道にその外殻から電子が落ち込んでくるとき、その軌道間のエネルギー差で放出されるX線である。特性X 線のエネルギーは元素毎に固有の値であるため、これを計測することで元素分析を行うことができる。

2-1. 電子線照射により得られる情報

一定の加速電圧で試料に電子線を照射すると、入射電子は試料と相互作用し、さまざまな信号を発生させる。この様子を図1に示す。図1は各種信号の相対的な分析領域の大きさも表している。電子線照射によって発生する二次電子、反射電子、特性X 線、オージェ電子、吸収電流、カソードルミネセンスなどである。これらの信号のうち、EPMA は特性X 線を計測することにより元素分析を行う。特性X 線とは、入射電子が試料を構成する原子の軌道電子を原子外に弾き出し、空になった軌道にその外殻から電子が落ち込んでくるとき、その軌道間のエネルギー差で放出されるX線である。特性X 線のエネルギーは元素毎に固有の値であるため、これを計測することで元素分析を行うことができる。

図1 電子線入射で得られる主な情報

図1 電子線入射で得られる主な情報

2-2.X 線の検出

X 線の検出には主に2つの方式がある。エネルギー分散型分光器(EDS))と波長分散型分光器(WDS)である。EPMA は、主に複数のWDSを装備している装置を指す。

EDS は、1つの検出器でBe ~ U の全元素を同時に測定できるので、SEM の分析用に装着される。EDS ではX 線のエネルギー分解能が130eV 程度であるため、多元素系の分析には不利であり、微量元素の検出限界は0.1% 程度に留まる。

これらの点はWDS に劣るが、短時間で同時に全元素の計測が可能な点や、試料位置の幾何的制約が緩い点など、有利な点も多い。

次に、WDS の概略図を図2に示す。この図に示されているように、分析点(試料の電子線照射位置)、分光素子、X 線検出器の3つの位置関係は常に同一半径の円周上、いわゆるRowland 円上にあり、分光素子及び検出器は、この円周上の位置関係を保ちながら移動する。試料より発生したX 線(波長 l)はブラッグの法則により格子面間隔d の分光素子で回折し、検出器スリットに向けて集光される。ブラッグの法則は、X 線の回折角θにおいて以下の式で表される。

式1

ここで、図2より、Rowland 円の半径をR、試料と分光素子との距離をL とすると、以下の式が成り立つ。

式2

(1)及び(2)式より,

式3

(3)式より、分光器を走査し計測したX 線のピーク位置L がわかれば、検出したX 線の波長λがわかる。Rowland 円径は100 ~ 160 mm 程度で設計されている。詳細は省略するが、全元素分析を行うためには少なくとも格子面間隔d の異なる4種類の分光素子が必要となる。WDS によるX 線分光においては、試料の高さ制御が非常に重要となるため、内蔵の光学顕微鏡を用いて試料高さを調整する。WDS はEDS に比べて特性X 線スペクトルのP/B 比が高く、微量元素の検出限界は数10ppm 程度に達する。WDS のエネルギー分解能は数10 eV 程度であるため、EDS のように含有元素のスペクトルがオーバーラップする可能性は低い。

図2 波長分散型分光器(WDS)の概略図

図2 波長分散型分光器(WDS)の概略図

3-1. 定性分析・定量分析

定性分析とは、分光器をスキャンさせてX 線スペクトルの収集を行い、含有元素の判定を行うものである。図3は、蛍光体試料の定性分析スペクトルであり、希土類元素が多数含まれるような試料も元素判定が容易であることを示している。

元素自動判定の後、簡易定量分析が実行される。装置制御用コンピュータには、標準試料を用いて校正された感度曲線データが格納されており、試料の簡易定量値を容易に得ることができる。また、必要な元素の標準試料測定を行い詳細な定量分析も行うことができる。充分に検討されたWDS の定量精度は、相対誤差1% 程度であり、湿式分析に迫る。しかし、一般的にEPMA は数mm 程度の微小領域が分析対象であり、湿式分析のような数mm 角領域の平均組成を得る場合とは分析領域が大きく異なることに注意する必要がある。

図3 EPMA の定性分析スペクトル(試料:Monazite)
図3 EPMA の定性分析スペクトル(試料:Monazite)

3-2. 面分析

面分析とは、試料のある一定範囲内における元素分布を計測する方法である。各元素の分布の多寡を色での濃度などで表現し、視覚的に元素分布がわかる。試料の元素分布を得る方法としては、X 線信号を電子プローブ走査と同期させて得る方法(ビームスキャン)と、試料ステージ走査と同期させて得る方法(ステージスキャン)がある。特にEPMA の場合、試料、WDS の分光素子及び検出器の幾何的位置関係が重要であるので、広領域のビームスキャンによる面分析は困難であるが、高速、高精度試料ステージによって、数10mm 角試験片の面分析も容易になっている。一般的なEPMA の面分解能は、およそ1 mm 程度といわれているが、バルク試料の場合、加速電圧を低加速にして、試料中の電子線散乱領域を小さく抑えること、及び、高輝度電子銃(FE 型、LaB6等)を用いることにより、0.1 mm 程度の面分解能を得ることも可能である。

図4は、高温腐食されたNi 基合金(Alloy825)断面のショットキー型電子銃を用いたFE-EPMAによる面分析結果4) である。試験環境による高温腐食試験により、材料表面に形成される酸化スケールは複雑な多層構造となっていることがわかる。Ni 酸化物ベースの厚い酸化スケールだけでなく、内部に約200 nm 程度の薄いCr 酸化層が形成されており、これが高温腐食の保護層となっていることが、FE-EPMA の面分析結果から推定される。

図4 FE-EPMA 面分析例(高温腐食したNi 基合金断面)

図4 FE-EPMA 面分析例(高温腐食したNi 基合金断面)

《参考文献》
  1. S. J. B. Reed : Electron Microprobe Analysis, Cambridge University Press(1993)
  2. 日本表面科学会編『電子プローブ・マイクロアナライザー』丸善株式会社(1998)
  3. R. Castaing : Ph. D. thesis, Univ. Paris(1951)
  4. A.Sato, H.Takahashi and M. Yoshiba, Proc. Intern. Symp. on High-Temperature Oxidation and Corrosion 2005, Materials Science Forum Vols. 522-523, 87(2006)

土門 武
(日本電子株式会社)

2016年11月2日 公開

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