波長分散型蛍光X線分析装置の原理と応用

1. はじめに

蛍光X 線分析法は迅速に定性、および定量分析することができる機器分析法として幅広い分野で利用されています。また、他の機器分析法と比較して試料調製が簡便で分析精度が高いため、日常的な品質管理分析だけでなく、故障解析分析や、新たな材料や製品の研究・開発に対しても有効な分析手法となっています。

2.蛍光X 線分析法の原理と応用分野

蛍光X 線分析法(X-ray fluorescence analysis、XRF)は、分析対象試料にX 線(1次X 線)を照射して含有元素の原子の内殻電子を励起し、励起された不安定な状態(内殻上に空孔が生じた状態)から安定状態に戻る時に発生するそれぞれの元素に固有の波長(エネルギー)を持ったX 線(蛍光X 線)を観測することによって、分析対象試料の含有元素を定性又は定量分析する方法です(図1参照)。

図1 蛍光X 線の発生

図1 蛍光X 線の発生

蛍光X 線分析の用途はスクリーニングから工程管理まで、主成分分析からppm のオーダーの分析までと幅広くなっております。また近年では卓上型の波長分散型装置や、ハンドヘルド型のエネルギー分散型装置などもあり、ラボ、サテライトラボ、クリーンルームからフィールドまで幅広く使用されています。

3. 波長分散型とエネルギー分散型

蛍光X 線分析装置は、一般的に波長分散型(Wavelength dispersive type)とエネルギー分散型(Energy dispersive type)とに大別され、それぞれ「WDXRF」または「WDX」、「EDXRF」または「EDX」と略称されます。試料にX 線を照射したとき、試料に含まれる含有元素由来の種々の蛍光X 線が発生するため、これらを適切な方法で分離して測定する必要があります。

その手段としてX 線の波長に着目するのが波長分散型、エネルギーに着目するのがエネルギー分散型です。波長分散型は蛍光X 線を分光素子により分光し、目的の蛍光X 線を検出器により選択的に計数するため分解能と精度が優れています。一方、エネルギー分散型は蛍光X 線をそのまま検出器で検出し、電気的にエネルギーに対応してスペクトルを分離し計数します。全元素を検出器に取り込むため迅速であり、種々のスクリーニング分析に用いられています。

4. 波長分散型の原理

波長分散型の装置では、試料から発生した蛍光X 線を分光素子で分光します(図2参照)。分光素子の面間隔をd とすると、ブラッグの条件により波長λのX 線は、2d sinθ=nλを満たす角度2 θ の方向に分光されます(n は正の整数)。蛍光X 線は元素毎に固有の波長を持つので、分光素子の面間隔 d が予め分かっていれば、ブラッグの条件から、分光素子で分光される蛍光X 線も元素毎に決まった分光角度2 θを持つことがわかります。よって、分光素子と検出器とを、図2のように θ と2 θ の関係を保ちながら走査(スキャン)すると、検出器で観測されるX 線強度は、試料に含有されている元素に固有の角度2 θ でピークを持つ(図3参照)ので、その試料にどの様な元素が含まれているかを知ることができます(定性分析)。また、予め分析したい元素が決まっていれば、その元素固有の波長に対応した角度2θ におけるX 線強度を測定することで、対象の元素がどの程度含まれているかを知ることができます(定量分析)。

近年は分光素子として用いられる人工累積膜の作成技術の進歩により、Be、B、C、N といった原子番号が1 桁の元素についても、感度良く測定ができるようになりました。

図2 波長分散型蛍光X 線分析装置の原理図

図2 波長分散型蛍光X 線分析装置の原理図

図3 定性チャートの例(分光素子:LiF(200)

図3 定性チャートの例(分光素子:LiF(200)

5. ニッケル合金、高合金鋼の分析

応用例としてニッケル合金、高合金鋼の分析について紹介します。蛍光X 線分析法の場合、金属試料を研磨紙などで研磨した後、そのまま測定することができます。これら合金の分析においては、元素間の吸収励起効果(マトリックス効果)が大きく、吸収励起補正(マトリックス補正)が重要となりますが、ニッケルや鉄等の含有率範囲が広いため、検量線法を用いる場合、多数の標準試料を要し、品種毎に検量線の作成が必要となります。一方、FP 法(ファンダメンタル・パラメーター法)による分析を用いることで、微量から高含有率まで広い含有率範囲で正確な分析結果を得ることができます。

FP 法による定量分析では、検量線の代わりに、感度較正曲線を作成します。試料内で生じる吸収励起効果を考慮して理論強度を計算し、実測強度との相関を求めて感度較正曲線とします。感度較正曲線は検量線とは異なり、微量から100mass% までの含有率範囲を1 つの曲線で表すことができます。

標準物質118 点と純金属試料を用いて17 元素の感度較正曲線を作成し、これらすべての標準試料の定量値を求めて得られた各元素の正確度(分析誤差の二乗平均の平方根)を表1に示します。0 から100 mass% の広含有率範囲の元素についても良好な結果が得られています。Ni、Cr につきまして、標準試料の標準値と蛍光X 線分析値との相関を図4に示します。Ni は含有率範囲0から100 mass% で正確度は0.14 mass%、Cr は含有率範囲0 から39.48 mass% で正確度は0.10mass% と精度の高い分析が可能であることがわかります。

表1 ニッケル合金、高合金鋼の正確度
表1 ニッケル合金、高合金鋼の正確度

表2 定量分析結果
表2 定量分析結果

図4 標準試料の標準値と蛍光X 線分析値との相関

図4 標準試料の標準値と蛍光X 線分析値との相関

図4 標準試料の標準値と蛍光X 線分析値との相関

また、IARM 59B(ニッケル合金)とJSS 655-11(高合金鋼)の定量分析結果を表2に示します。表2のように、FP 法を用いることで、幅広い含有率範囲のニッケル合金・高合金鋼の試料群に対し、一組の感度較正曲線を用いて正確な分析を行うことができます。

6. まとめ

蛍光X 線分析法は、多数の試料の元素組成を非破壊で迅速・高精度に分析できることから、新材料の研究開発や、各種材料の製造工程における品質管理において活用されています。また、化学分析のように熟練した技術や専門的な知識が不要で、廃液処理もなく環境に優しい分析法といえることから、蛍光X 線分析法の有用性がますます高まっています。

<参考文献>
Simultaneous Analysis of Nickel, Cobalt and Iron Base Alloys Using the Fundamental Parameter Method, Y. Kataoka, E.Furusawa, H. Kohno, T. Arai, A. Martin, H. Inoue, M. Mantler, Advances in X-ray Analysis, 2006, 50, 83-88.

森川敦史
(株式会社リガク)

2016年2月8日 公開

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