ガスクロマトグラフ(GC)の原理と応用

概要

 ガスクロマトグラフは、キャピラリーカラムの進化に伴い発展してきました。キャピラリーGCは、分離が速く、高分離なため一斉分析に適した分析手法です。その機能・性能のキーデバイスであるキャピラリーカラムは、中空の溶融シリカ細管の内壁を固定相でコーティングされています。キャピラリーGCは、固定相と物質の相互作用で分離を行い、検出器までの到達時間で定性、検出器からの信号量で定量を行います。
本編では、キャピラリーカラムによる分離の原理やその性能の解説、注入口・検出器などによる測定のバリエーション、さらにGCの将来像を紹介致します。



はじめに

 GCの発展は、キャピラリーカラムの進化に伴うものといっても過言ではない。溶融シリカ管の表面への化学結合や液相の工夫により、400℃以上でも使用できるカラムが出現して、GCの使用温度範囲も変わらざるを得なくなった。また、細いカラムにいかに大量の試料を注入し微量分析を可能にするかという課題により、様々な注入口が目的に合わせて提案されている。ここでは、主に利用されているキャピラリーGCを中心に解説する。

1.キャピラリーガスクロマトグラフの特長

 キャピラリーGCの最大の特長は、分離の速さと一斉分析に適していることにある。汎用的に利用される60m のカラムでは、90 分程度の分析で500 以上の成分を分離検出できる。このことはカラムの分離能を表す指標の一つの理論段数Nの高さ、移動相の速さ、検出器の特性に関係している。高速液体クロマトグラフ(HPLC)では、最適な分離が得られる移動相の線速度は凡そ1~5mm/sec であるが、GCではヘリウムで200~600 mm/sec、水素では1000mm/sec 以上の線速度で分析することが可能である(カラムの長さを考慮して単位時間当たりの理論段数で比較すると、HPLC が500 段/s に対してGCは3000 段/s となる)。またGCの検出器の水素炎イオン化検出器や質量分析計(電子衝撃イオン化)などは、どの分析種(測定対象物質)にもほぼ同等に高感度が得られ汎用性が高く一斉分析に適している。特にFIDは有機化合物の炭素の数に感度は影響されるが107 の直線性を有している特筆すべき検出器といえよう。さらにGCでは、夾雑物の影響を受けずに分析種を高感度で検出できる選択的な検出器も揃っている。
 このようにGCは優れた分離分析装置であるが、分析種が試料導入部またはカラム入口で、揮発性を有していて完全に気化することが要求される。より正しく言えば、気化は注入のためよりも、分析種がカラム内で固定相と気相(移動相)に分配されて分離し、検出器まで到達するための必要条件ということになる。ほとんどの試料は、カラムに残留する物質や妨害物をクリーンナップ(粗分離)などの前処理で除去しなければならない。

2.キャピラリーカラムの性能

 キャピラリーカラムの特長は中空ということである(Wall Coated Open Tubular Column ; WCOT カラムという)。溶融シリカ管の表面のシラノール基を利用して固定相を化学結合する。
 図1は、キャピラリーカラムの断面写真である(カラムはInertCap17 固定相を蛍光物質のペリレンで染色)。

WCOTキャピラリーカラムの構造と特長

直径248.7 μ m の中空のトンネルに対し、固定相は0.25 μ m と卵の薄皮のように薄い。中空のためにキャリヤーガスの圧力損失が少なく、カラム長を長くできる。この大きな中空部と薄い固定相との断面積の比(=体積の比)を相比と言う。キャピラリーカラム中の狭いドーナツ状の部分を考えたときに、キャリヤーガスで運ばれてきた分析種は、瞬時に固定相中と移動相中の濃度が平衡になることが望ましい。しかし実際には、移動相中の固定相の近くにいる分析種の分子は早く固定相に到着するのに対し、中心部にいる分子は、到達までに時間がかかる。一方、固定相に到着した分子は、固定相の表面と内部の濃度差により浸透していくが、固定相表面の分析種がキャリヤーガスにより運ばれ希薄になると、逆に内部より表面に移動する。キャリヤーガスの移動速度に対して、相平衡に到達するまでの移動相中と固定相中の移動時間が長いと、ピークが広がることを意味している。ヘリウム中のベンゼンの拡散速度が0.384cm2/s(25℃)に対して、GCの固定相中の拡散速度は、凡そ10 -6 cm2/s と極端に遅い1)。物質が移動する時間は移動距離と(拡散)速度で決まるから、それに適した相比が利用されるわけである。
 以上のことから、カラム内径が細く固定相の膜厚が薄いほどカラム内での気液平衡化が早く、性能が向上するが、一方で試料負荷量は減少するので注意が必要である。

3.キャピラリーカラムの固定相

 固定相の各分析種の保持力は、それぞれのピークの保持時間(tr;リテンションタイム)となって顕れる。保持時間は、カラムの長さやキャリヤーガスの線速によって変わるので、固定相の保持特性などを比較するために、保持係数k を使用する。保持係数k は、分析種の保持時間tr と固定相に保持されない成分(通常はメタンなどを使用する)の溶出時間t0 から次の式で求められる。

保持係数の式

 分析種は移動相中に存在するときは移動相の速さで移動し、固定相中に存在するときは移動しない。保持係数k は分析種がキャリヤーガス中にいる時間と固定相中にいる時間の比を示している。k の大小は、固定相と分析種の親和力の差により生じる。「類は友を呼ぶ」の原則で、極性の固定相には、アルコールなどの極性物質は良く溶解し大きな保持を得るが、無極性のn - アルカン類はほとんど保持されない。逆に無極性の固定相には、炭化水素類は良く保持されるが、強極性物質は保持が少ないだけでなく、溶解されにくいのでリーディング状のピークになりやすい。(図2参照)

固定相の極性による分離パターンの変化

4. 注入口とキャピラリーカラムへの試料導入

 キャピラリーGCでは、クロマトグラフィーの分離に供されるための気化は、ほとんどの場合カラム中で発生している(昇温分析での初期温度は溶媒の沸点以下に設定される)。注入口での気化は、注入試料の一部をカラムに導入するスプリット注入法において、キャリヤーガスと試料を均一に混合させたい場合や、カラムに損傷を与える難揮発性残渣などを注入口ライナー(インサート)に残す目的で利用されていると言っても過言ではない。
<注入口の種類>
 注入口の代表的なものは以下の4種である。
   1) オンカラム/ダイレクト注入口
   2) スプリット/スプリットレス注入口
   3) コールドオンカラム注入口
   4) 温度プログラム気化注入口
 注入できる分析種の量の上限は、カラムの試料負荷容量や検出器のダイナミックレンジで決まるが、一方、注入できる試料体積の限界は、注入時に試料バンドが広がりピークがブロードになることと係わっている。
 試料をスプリットせずに、多量の試料をキャリヤーガスで注入口からカラムに導入された時のピークの広がり方は、時間的なバンドの広がり方と、空間的なバンドの広がり方で説明されていて、この広がったバンドをどのようにフォーカッシングするかがキャピラリーGCを使う上での大事なテクニックとなっている2)。キャピラリーカラムへの完璧な試料導入は難しいが、原理や特徴を理解して目的に合せて選択することが重要である。

5. ガスクロマトグラフの検出器

 GCでは不活性な移動相に運ばれて分析種が検出器に到達する。移動相の透明性の高さが(検出器に信号を与えない)、分析種の物理的・化学的性質を利用した検出を楽にしているといえる。
 GCの検出器は30 種以上発表されているが、良く利用され市販されている検出器の特徴を下表1)2)に示す。

ガスクロマトグラフの検出器

終わりに

 ガスクロマトグラフは、使用されている台数から見れば安定期に入ったといえる。しかしカラムや注入法、GCMS などは確実に進化している。さらに分析目的ごとの最適化も進んでいる。たとえばGC×GC(ジーシーバイジーシーと読む)は、複雑な組成の天然物の分離分析用に開発された。チップ化により集約が進んだマイクロ(ポータブル)GCは、燃料電池などの開発に利用されている。
 日本は資源のほとんどを輸入している。ヘリウムガスも100%が輸入されていて、この秋には供給不足が懸念されている。原発問題に端を発した電気量不足も大きな問題である。実際に溶融シリカキャピラリーカラムだけを加熱するのであれば、100W 程度のヒーターで十分なはずである。近い将来、分離の効率を表す指標として、分離度/電気量や分離度/ヘリウム消費量がカタログに記載されるかもしれない。超省エネ型GCの出現を望みたい。

古野正浩
(ジーエルサイエンス(株))

2012年1月31日 公開

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