分析機器情報

電子線応用装置

概要

 電子顕微鏡に代表される電子線応用装置は、電子線を観察/分析対象の試料に照射することに共通点があります。物質に電子線を照射するとその相互作用により、二次電子、反射電子(後方散乱電子)、オージェ電子、カソードルミネッセンス、特性X線などが発生します。それらを検出することにより、試料の形態観察だけでなく、元素局在、結晶方位、最表面元素情報、化学特性などを知ることができます。
本編では、透過電子顕微鏡(TEM)と走査電子顕微鏡(SEM)の原理と応用を解説致します。

1.概要

 光学顕微鏡では光の波長(可視光の波長は数百nm)よりも小さな構造が観察できないため、このような小さな物体を見るために、光の波長に比べてはるかに波長の短い電子線(100 kV 電子線の波長は0.0037 nm)を使った電子顕微鏡が考案された。電子顕微鏡には、薄膜状試料の内部構造を観察するための透過電子顕微鏡(TEM)と、バルク状試料の表面観察を行うための走査電子顕微鏡(SEM)がある。電子顕微鏡以外の電子線応用装置としては、細く絞られた電子線を照射したときに試料から放出された特性X 線を検出して微小領域の元素分析を行うX 線マイクロアナライザー(電子プローブマイクロアナライザー、EPMA)や、オージェ電子を検出して試料の極表面数nm の深さのみの元素分析を行う走査型オージェ電子分光装置(SAM)、あるいは電子線を物質表面で自在に走査させて微細なパターン描画を行う電子線露光装置(EB 露光装置)などがある。

2.TEM とSEM の原理

 図1にTEM とSEM の原理を光学顕微鏡と比較して示す。また図2に電子線と物質の相互作用により放出する各種信号を示す。
 TEM では、薄膜を透過した高エネルギーの電子線(高分子材料などでは100 kV、金属やセラミックス材料では数百~数千kV)を直接蛍光板に結像させて観察してきた。近年は、蛍光板上の画像を観察するのではなく、CCD カメラで受像した画像をモニター上で観察するのが主流になっている。図からも分かるようにTEM の電子光学系は光学顕微鏡に極似している。ただし、得られたTEM 像を理解するには、像コントラスト(散乱、回折、位相などに依存する)が形成される原理を知る必要がある。また、TEM では形態観察や電子回折像に基づく結晶構造解析に加えて、エネルギー分散型X 線分光器(EDS)や電子エネルギー損失分光器(EELS)による極微小領域の元素分析や結合状態解析が可能である。

TEM、SEM原理図(光学顕微鏡との比較)と電子線と物質の相互作用により発生する各種信号

 一方SEM では、エネルギーの低い入射電子(数百V ~ 30 kV)を細く絞り試料表面で二次元に走査し、入射電子とバルク状試料表面の相互作用によって放出されたエネルギーの小さな電子(二次電子、数十eV)を検出してモニター上に画像を得る。二次電子の放出量は主に試料表面の凹凸に依存するため、表面の凹凸形態の観察に適している。SEM で得られる画像は光学顕微鏡に比べて分解能に優れるだけではなく、桁違いに大きな焦点深度が得られるのが特長である。入射電子の多くは、バルク状試料の中でエネルギーを失うが、中にはエネルギーを失う前に再び試料表面から真空中に飛び出すものもある。これを後方散乱電子または反射電子と呼ぶが、試料表面の組成差情報や結晶情報を持つため、二次電子像による形態情報と対比して用いられる。また、SEM では波長分散型X 線分光器(WDS)やEDS による微小領域の元素分析や、後方散乱電子線回折装置(EBSD)による結晶解析が可能である。

3.その他の電子線応用装置

 SEM に複数のWDS を取り付けて元素分析に特化させた装置がEPMA であり、SEM の試料室を超高真空化してオージェ電子分光に特化させた装置がSAM である。EB 露光装置は、基本的にはSEM と同様の電子光学系を持つが、自在に電子線走査が行えるために、物質表面に塗布された電子線描画用レジスト(PMMA など)へのパターン描画が可能となる。露光後にレジストを現像すると描画したパターン構造が現れる。

4.TEM とSEM による応用事例

 図3は、TEM の高分解能像を示す。試料は半導体(メモリーデバイス)で、シリコン基板とポリシリコンに挟まれたゲート酸化膜部分の高倍率像(200 kV、明視野像)である。また図4は、単層カーボンナノチューブ(CNT)がバンドルを形成している様子を示したSEM 像(15 kV、二次電子像)である。CNT に付着している粒状の物質は金属触媒である。

TEM像(メモリーデバイス)とSEM像(カーボンナノチューブ)

小倉一道
(日本電子(株))

2011年12月26日 公開

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