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X線分析法の基礎と応用

概要

 X線は、波長が短く、エネルギーの高い電磁波のため、回折による原子の配列情報の取得や内核電子のたたき出しによる二次X線(蛍光X線)による元素同定などが可能となります。また、X線分析法は、非破壊分析という大きな特長を有しています。その他の多くの分析法は測定対象物質を溶かしたり、燃やしたり、消費したりする場合が多いのですが、X線分析法は、多くの場合、分析対象物をそのまま分析することが可能です。
本編では、X線回折法の原理と応用及び蛍光X線分析法の原理をご紹介致します。

1.X線回折法の原理

 原子が規則正しく配列している(配列面を格子面という)物質に、原子の間隔と同程度の波長(0.5Å~ 3Å)を持つX線を入射すると、各原子で散乱されたX線が、ある特定の方向で干渉し合い、強いX線を生じる。これがX線の回折現象である。M.V.Laue がX線の回折現象を発見した翌年の1913 年に、Bragg 父子は、ブラッグの公式を発表し、X線回折が起こる条件を理論的に明らかにした。図1からわかるように、第1格子面で散乱されるX線と第2格子面で散乱されるX線の行路差は、2d sinθになるため(d は格子面間隔)、この行路差が入射X線の波長(λ)の整数(n)倍のときに波の位相が一致(干渉)し、強い回折X線となる。θはブラッグ角(Bragg angle)、2θ(入射X線方向と回折X線方向とのなす角度)は回折角(diff raction angle)という。即ち、 2d sinθ=nλこれをブラッグの公式という。この公式からわかるように、既知波長λの入射X線を物質に入射し、回折角2θとそのX線強度を測定することによって、図2のX線回折プロファイル図形を得ることができ、回折ピークの角度(2θ)から、物質の格子面間隔d を知ることができる。
これがX線回折法の基本原理となっている。

Braggの回折条件とX線回折プロファイルの図形

2.X線回折法の応用

 X線回折法には、代表的なものとして、粉末X線回折法、単結晶X線回折法及びX線回折顕微法などがある。粉末X線回折法は、粉末状の結晶、あるいは微細な結晶粒子が緊密に集まってできている多結晶体を試料として取り扱うX線回折法である。粉末X線回折プロファイル図形を得るためのX線回折装置は、図3に示すように、特性X線を分光器の中心に取り付けた試料に入射させ、また、試料を中心としてX線検出器を入射X線と回折X線を含む平面内で回折角2 θ方向へスキャンすることにより、回折線の回折角と強度を測定することができ、図2、図4のようなX線回折プロファイル図形として表すことができる。
 物質は、それぞれに特有な規則性を持つ結晶であり、結晶構造や化合形態が異なれば回折図形が変化するので、図形中に現れるピークの位置や強度、ピークの角度広がり、ピークの形などから物質についての様々な情報を得ることができる。図4に、広角領域(2 θがおよそ5°以上)での粉末X線回折法で知ることのできる物質の主な情報をそれぞれ示す。又、2 θがおよそ10°以下の小角領域の測定においては、ナノ粒子(空孔)サイズ及びその分布広がりなどの粒径解析や長周期構造の解析ができる。
 単結晶X線回折法は、単結晶を測定対試料としたX線回折法である。単結晶の各結晶格子面からのX線回折方向とその強度を詳細に測定・解析することにより、低分子からタンパク質などの生体高分子にいたる化合物分子の立体構造を決定することができる。又、その他の応用として、単結晶の方位測定がある。X線回折顕微法は、X線トポグラフ法とも呼ばれ、Si ウェハーなどの単結晶内部の転位、積層欠陥、不純物の析出・偏析などを直接観察する手法である。

X線回折装置の原理とスペクトル

3.蛍光X 線分析法の原理

 入射X 線のエネルギーが物質のK 殻軌道を回る電子の結合エネルギーより大きい場合、その殻の電子を励起し、殻から電子をたたき出す(光電効果)。その空席に他のL、M、N,...殻軌道の電子が遷移し、安定な状態に戻るときにX 線が放射され、このX 線を蛍光X 線という。蛍光X線のエネルギー(波長)は、原子の電子軌道間のエネルギー差に基づくもので、物質を構成する元素について固有の値をとるため、蛍光X線のエネルギー又は波長を測定することにより、物質の構成元素を知ることができる。蛍光X線の発生機構を図5に模式的に示す。蛍光X線分析装置にはエネルギー分散型と波長分散型がある。前者は、エネルギー分析機能を持つX線検出器を使って、直接、蛍光X線のエネルギーを測定するもので、測定の迅速性に特徴がある。後者は、ブラッグの公式を利用した結晶分光器で蛍光X線の波長を測定するもので、分析の分解能が高い。

蛍光X線(固有X線)発生の原理

 蛍光X線分析法は、そのX線スペクトルが物質の化学的な結合状態や物質の状態(固体、粉体、液体、結晶質、非結晶質など)には無関係であり、非破壊で比較的簡単に元素分析ができるため、広く使われている。金属・鉱物・セメント・石油工業などにおける各種材料の分析、土壌・プラスチック・食品中の有害物質の分析、大気・河川などの環境分析、文化財の分析、又、半導体分野における半導体ウェハーの膜厚・組成分析、ウェハー表面の汚染・異物分析など応用分野は極めて広い。

技術委員会 高橋貞幸
((株)リガク)

2011年12月26日 公開

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