イオンクロマトグラフの原理と応用

1.はじめに

 イオンクロマトグラフィーは、主としてイオン種成分を測定する液体クロマトグラフィーの一種として位置づけられる。溶離液を移動相として、イオン交換体などを固定相とした充填カラム内で試料溶液中のイオン種成分を分離し、定量する方法である。このイオンクロマトグラフィーは、環境水中の無機イオン測定のために開発され、1975年にSmall らによって発表後、国内においても環境水や排水等の水質管理のほか、大気環境測定や食品分野などの品質管理等にも広く適用されている分析方法である。

 イオン種成分の分離の場であるカラムには、通常イオン交換型が使用されるが、目的イオン種成分によってはイオン排除型や逆相イオン対型のカラムなどを使用することもある。

 検出器として最も一般的なのが電気伝導度検出器であり、イオン種によってレスポンスの大きさに差があるが、非常に汎用的な検出器である。目的によって液体クロマトグラフィー同様に紫外可視吸光光度検出器や電気化学検出器が使用されており、感度や選択性を出すためにポストカラム法での測定も行われている。また、最近では定性能力に優れた質量分析計との組み合わせや荷電化粒子検出など様々な測定方法が生まれ、今日に至っている。イオンクロマトグラフィーは、分離を目的とした方法であることから多成分同時分析が可能であることのほか、共存成分の影響を受けにくいという利点を有している。これらのことから、イオンクロマトグラフィーによる測定は上水試験法、工場排水試験法(JIS K0102)、排ガス中の塩素分析方法(JIS K0106)などの公定分析法や食品分析法などにも採用されている信頼性の高い測定方法と言える。

(1)基本的な装置構成

 イオンクロマトグラフは、溶離液を移動相とし、これを一定の流量で送る送液ポンプ、試料導入部、イオン種成分の分離の場であるカラム、分離されたイオン種成分を検出する検出部、データ処理部で構成される(図1)。なお、溶離液中の溶存ガスによってポンプの送液が不安定になることもあるため、必要に応じて脱気装置を使用する。カラムや検出セル(特に電気伝導度検出)は温度コントロールすることでより安定した測定が行えるため、温度制御機能を兼ね備えた恒温槽に一般的に設置される。

イオンクロマトグラフの構成例(サプレッサー方式)

図1 イオンクロマトグラフの構成例(サプレッサー方式)

 試料導入部より注入された試料は、送液ポンプによって送液される溶離液により、カラムへと導かれる。このカラムにて試料中のイオン種成分は分離される。分離されたイオン種成分は検出部にて溶離液のみの信号からの変化量として計測され、この出力信号をデータ処理部でクロマトグラムとする(図2)。

 図2 クロマトグラム

図2 クロマトグラム

 保持時間(溶出時間、リテンションタイム)は、使用するカラムや溶離液等の条件が決まれば、イオン種成分毎に一定であり、またピークのレスポンスの大きさはイオン種成分毎に異なるが濃度に依存する。既知濃度の標準液(トレーサビリティーが確保されたもの)を測定し、これらを確認しておくことでイオン種成分の定性と定量が可能となる。

(2)検出

 汎用的な電気伝導度検出器を使用する方法では、図1のように分離カラムと電気伝導度検出器の間にサプレッサーを配置し、検出段階で溶離液を電気伝導度の低い溶液に変換するサプレッサー方式とサプレッサーを配置せずに電気伝導度の低い溶液を溶離液に用いるノンサプレッサー方式の2つがある。

 例えば、陰イオンをサプレッサー方式にて測定する場合について説明する。
溶離液には炭酸塩緩衝液、ほう酸塩緩衝液、水酸化カリウムなどの塩基性溶液が用いられる。サプレッサー内ではイオン交換作用により溶離液中の陽イオン(ナトリウムやカリウムイオン)と水素イオンがイオン交換され、溶離液側に移動した水素イオンの作用で炭酸イオンであれば解離度の低い炭酸に、水酸化物イオンであれば水に変換されるため、検出部に導入される溶離液の電気伝導度を低減できる。これに対し、試料中のイオン種成分は電離可能な酸型になるため高い電気伝導度を示す(対イオンである水素イオンは、ナトリウムやカリウムイオンなどに比べ大きな当量電気伝導度を有する)。これらの作用によりサプレッサーを利用した装置では高感度検出が可能になる。

 ここでサプレッサーには、膜型、カラム型、ゲル型、ファイバー型などがあり、サプレッサーのイオン交換部位を連続的に使用可能な状態とするためには再生処理が必要である。再生方法としては、酸性溶液(硫酸溶液)を用いる化学的再生方式と水または検出器からの排出液を電気分解することによって生じた水素イオンを供給することで再生を行う電気的再生方式などがある。

 ノンサプレッサー方式での溶離液には、芳香族カルボン酸塩(安息香酸塩やフタル酸塩)などの電気伝導度の低い溶離剤を利用し、また、溶離液のpH を調整することにより分離挙動を制御する。
この方式では、カラムから溶出されたイオンの電気伝導度の変化を直接測定するため、特別な装置構成は必要とせず、電気伝導度検出器を組み合わせた基本的なシステム構成で測定を行なうことが可能である。

(3)試料の前処理

 装置に試料を導入するにあたり、測定対象(液体、固体、ガス)試料は、水溶液とする必要がある。また、目的の分析によって、その試料に合わせた試料採取や前処理を行う必要がある。測定するイオン種成分によっては、環境や使用する器具類からの汚染を受け易く、さらには、経時変化などを起こすイオン種成分もあるため試料の保存と調製には十分に注意する必要がある。

 前処理の目的は、妨害物質の除去、カラムや装置の保護のためだけではなく、測定精度や感度の向上なども目的として行われる。水溶液である試料の前処理方法としては、基本的には希釈とろ過(孔径0.45 μ m 以下のフィルター使用)になるが、遷移金属イオンや疎水性物質、色素などが試料に含まれる可能性があり、それらを除去するためには、樹脂などを充填したカートリッジカラムが市販されているのでそれらを利用すると良い。また、固体試料である場合は、その前処理に燃焼法を組み合わせるなどの対応が必要になることもある。

(4)実試料への適用例

 実試料として身近な水道水への適用例を示した(図3、4)。陽陰イオンともに標準的なイオン種成分についてみたものである。なお、試料はろ過のみを実施した。両測定系共に複数のイオン種成分の分離測定が可能である。


 図3 水道水のクロマトグラム(陰イオン測定)

図3 水道水のクロマトグラム(陰イオン測定)

 図4 水道水のクロマトグラム(陽イオン測定)

図4 水道水のクロマトグラム(陽イオン測定)

2.おわりに

 イオンクロマトグラフィーでの測定対象成分は、無機陰イオンやアルカリ金属、アンモニアなどのほか、有機酸や糖類などもあり測定対象の幅が拡がっている。測定成分の検出法や測定試料の前処理法についても近年新たな手法が確立されているため、イオンクロマトグラフィーの適用の拡大が期待される。

塚田 雄一
(東亜ディーケーケー株式会社)

2014年10月23日 公開

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