磁気共鳴

概要

 核磁気共鳴装置は、薬品や農薬のような有機化合物、およびビニール、ポリエチレンといった高分子材料、そして核酸、タンパク質のような生体物質を構成する各原子のつながりである平面構造や立体的構造を決める事が出来る装置として、有機化合物構造解析には必要不可欠な装置です。
本編では、NMRの原理と得られる情報の解析の基礎などを解説致します。



1.はじめに

 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance :NMR)は、現在では医療用画像診断装置MRI(Magnetic resonance imaging)として使われ、世間によく知られていますが、元々は、化学の構造解析に主に使用されていました。
NMR は、磁場中の試料に数十MHz ~数百MHz の電磁波を照射して、スペクトルを得る分光法です。この周波数は、現在では、ラジオ、テレビ、携帯電話等で使用されている周波数帯です。赤外分光法( IR)や紫外分光法(UV)、X線回折(XRD)などの他の分光法に比較すると、感度が悪いのですが、医療用に使用されるように、非破壊でかつ、スペクトルから得られる情報量が多いため、有機物の構造解析や定量測定など様々な分析に用いられてきました。とくに、結晶化できない物質の立体構造を決定するにはNMR が主に用いられるため、古くから重要な分析機器の一つとして用いられてきました。
本稿では、最初にNMR の原理とその使用法について簡単に説明します。

2.NMR の原理
質量数または原子番号のいずれかが奇数の原子核(H、13C、31P など)は核スピンが整数または半整数になり、磁気モーメントを持っています。磁気モーメントは一般的に、小さな磁石のような動きを示します。このような、磁気モーメントを持っている核が磁場中に存在すると、磁場方向に対して安定または不安定な状態に配向します(図1)。

磁場中での核スピンの状態

 これらの磁場方向に対して安定な状態(磁場に平行)と不安定な状態(磁場に反平行)の間にはエネルギー差が存在するため、このエネルギーに相当する周波数の電磁波を外部から照射すると共鳴現象が生します。これが核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)です。
 核スピンの磁気モーメントは非常に小さく、地球磁場の十万倍の強い磁場中であっても数十万個に1個程度しか配向差が生じないため検出感度は赤外などの他の分光分析法より格段に低いのですが、観測するエネルギーギャップが小さいために分子構造の微小な変化にも影響を受けやすく、NMR から得られる情報量の多さにつながっています。
 現在のNMR 装置の主流になっているパルスフーリエFT-NMR では、信号の観測のために高出力の高周波を非常に短い時間だけ試料に照射する高周波パルスを照射し、試料からFID(Free Induction Decay)と呼ばれる一定の時定数で減衰する信号を観測するしています。FID には様々な周波数のNMR 信号が含まれており、この時間領域のデータを、コンピュータでフーリエ変換すると周波数領域のスペクトルが得られます(図2)。
 一般的に、この周波数領域のスペクトルをNMR スペクトルと呼んでいます。

NMRで得られるスペクトル

3.NMR 装置とサンプル

 図3はNMR装置の全景を示します。このようにNMR 装置は、強磁場を発生する「超伝導磁石」、テレビ放送局とテレビ受信機を一緒にしたような「分光計」、そしてフーリエ変換を行いスペクトルを表示する「コンピュータ」の3点から構成されています。
 図4に超伝導磁石の模式図と検出器。そしてサンプルの導入方法を示します。
 超伝導磁石は、その名の通り、絶対温度4.2 K (-268 ℃)の液体ヘリウムに超伝導素材で作成したコイルを浸けています。磁石はドーナツ状になっており、真ん中に穴があいています。
 この穴の下から、検出器(プローブ)を入れ、上方から、試験管に入れたサンプルを入れて測定します。

NMR装置の全景とマグネットと検出器、サンプルの配置

4.NMR データの情報

 それでは、実際のNMR スペクトルを具体的な試料で見てみましょう。有機化合物は、身の回りにいっぱいありますが、もっとも身近な有機化合物の一つがエタノールだと思います。要するに、お酒です。図5に、エタノールのNMR スペクトルを示します。観測している核種は水素核(H核)です。
 エタノールの化学構造は、CH3CH2OH です。メチル基CH3 が1 個、メチレン基CH2 が1 個、水酸基OH が1 個で構成されています。図5のスペクトルで、注目していただきたいのは、メチル基、メチレン基、水酸基がそれぞれ別々の3個信号として得られていることです。この分離を化学シフトと呼んでいるのですが、この化学シフトで、まさしく、エタノールがエタノールであると解ることになります。
 ちなみに、エタノールと良くにた毒物にメタノールがあるのですが、化学構造がCH3OHであり、メチル基と水酸基の2 個の信号しか現れません。
つまり、見た目に良く似た毒物のメタノールと、お酒のエタノールも、NMR を測定することによって区別できるだけではなく、構造も解ります。

エタノールの水素核のNMRスペクトル

 この構造が解ることが非常に重要です。
 現在社会を豊かにしている数々の化学合成品の多くは、天然物由来の物質を構造解析して、その化学構造を突き止め、それを改良して得られたものです。
 NMR は核そのものを観測できることによって、化学物質の構造を解析できる重要な分析装置です。

5. 定量NMR
 NMR は、核そのものを測定するため、信号の面積は、核の数を反映しています。NMR を測定することは分子を1 個1 個数えると同じ事です。近年、この特徴を利用して食品中の機能成分の定量に応用されています。
 図6は韃靼ソバ中の機能成分であるクセルセチンを定量したスペクトルです。
 このように、NMR は身近な食品の分析にも使用されています。

韃靼ソバのNMRスペクトル

 以上、読者のNMR への理解に多少なりとも役立てていただければ幸いです。

内海博明
(日本電子(株))

2011年12月26日 公開

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