分析機器情報

紫外可視分光光度計の原理と応用

概要

 分光光度計は1940年代に製品化され、古くから市販・活用されている分析装置の一つです。紫外領域と可視領域の光の領域を用いて溶液の吸収スペクトルを測定し定量分析を行えるのが、紫外可視分光光度計です。また、レンズ、塗料、蒸着面など固体試料では、透過スペクトルや反射スペクトルが測定でき、各種の特性評価が可能です。
本編では、紫外可視分光光度計の原理、RoHS指令の対象である6価クロムの分析例を応用として解説致します。

1. 分光光度計について

 分光光度計は1940 年代に製品化され、古くから市販されている分析装置の一つです。分光光度計は光を利用した分析装置です。一般的な分光光度計で測定可能な波長域は、可視領域 (380-780nm) と、紫外領域 (200-380 nm) です。真空紫外領域(200nm 以下)や近赤外領域(780nm 以上)を測定する分光光度計も製品化されています。分光光度計を用いることで、溶液試料における定量分析や光の波長ごとの吸光度をプロットした吸収スペクトルの取得が可能です。また、固体試料においては、透過スペクトルや反射スペクトルを測定することができます。

分光光度計の装置概観とその測定原理

2. 分光光度計の原理

2.1. 基本原理

 分光光度計の装置概観の一例と、その測光原理を図1に示します。代表的な分光光度計においては、光源として紫外領域に重水素放電管、可視領域にハロゲンランプを用いています。それぞれのランプは使用する波長に応じて、切り替えて使用します。近年では、光源寿命の観点から、キセノンフラッシュランプを光源とする分光光度計が市販されています。キセノンフラッシュランプは、ハロゲンランプや重水素放電管に比べて寿命が長いだけでなく、紫外領域から可視領域にかけて一つのランプで測定できる利点があります。

 測定を行う際の基本原理は以下のようになります。光源から測定に用いる波長の光を回折格子によって単色光に分光し、試料に入射(試料への入射光強度:I0)させます。試料はセルと呼ばれる容器に入れて装置に設置します。試料を透過した光の強度 (I) を光電子増倍管やシリコンフォトダイオード等の検出器で検出します。分光光度計ではこれを透過率もしくは、吸光度に演算し表示する機能を有しています。一般には固体試料の測定時に透過率を、溶液試料の測定時に吸光度を使用します。透過率( %T) はI0,Iを用いて式1によって算出します。式2 はブーゲの法則もしくはランバートの法則の名称として知られる式で、吸光度A と試料濃度c の関係が示されています。

%T =( I/I0) x 100       ・・・(式1)
A = log10(I0/I) = εc l     ・ ・・(式2)

シングルビーム方式とダブルビーム方式

 式2中のl (単位:cm)は光束が試料中を通過した光路の長さ(光路長)です。εはモル吸光係数 (単位:l mol-1cm-1) と呼び、その物質が特定の波長においてどの程度、光を吸収するか指標となる値で、物質固有です。光路長1 cm における目的物質1 mol/L あたりの吸光度換算値と言い換えることもできます。同一の光路長のセルを用いた場合、吸光度A と濃度c の間には、単純な比例関係を示し、この関係を用いることにより定量分析を行います。これを利用した分析法のことを吸光光度法と呼びます。

2.2. 様々な光学系

(1)シングルビームとダブルビーム
 分光光度計は、測定目的に応じて様々な光学系が用いられています。例えばシングルビーム(単光束)方式とダブルビーム(複光束)方式があります(図2)。シングルビーム方式は、分光器で分光された単色光がそのまま試料に照射され、検出器に入るものを指します。光学系が比較的単純で安価です。しかし、光源のゆらぎ等に起因する装置のドリフト(単位時間当たりの測光値の変動)の影響が生じやすく、精度を必要とする測定や多検体試料の測定には不向きです。ダブルビーム方式は、分光器で分光した単色光をハーフミラー等で試料光と参照光に分岐させています。試料光は試料の吸収測定に用い、参照光は装置に起因するドリフトの補正に用います。ダブルビーム方式の分光光度計は、長時間の測定においてもドリフトの少ない安定した測定が可能です。

(2)シングルモノクロとダブルモノクロ
 単色光に分光する分光器のことをモノクロメーターと呼びます。シングルモノクロ方式は1つのモノクロメーターを備えた分光光度計になります。一般的な分光光度計はシングルモノクロ方式になります。溶液試料の測定をする際にはシングルモノクロ方式のタイプの分光光度計で十分ですが、吸光度が高い溶液試料の際にはダブルモノクロ方式の分光光度計が推奨されます。図3に示すとおり、シングルモノクロ方式の分光光度計においては、高い吸光度領域にて、吸光度の直線性が得られません。一方、2つのモノクロメーターを備えたダブルモノクロ方式の分光光度計においては、良好な直線性が得られています。

シングルモノクロとダブルモノクロ

吸光度が高い領域では、試料を透過した光量が少ないため、検出器は微弱な光を検出する必要があります。シングルモノクロ方式においては、分光しきれていない目的波長以外の光(迷光)の影響が生じやすいため、微弱な光を検出することに適していません。一方、ダブルモノクロ方式においては、より波長純度の高い単色光を照射することができるため、迷光は少なく、目的の波長の光を高い吸光度まで精度良く測定できます。分光光度計の仕様にもよりますが、シングルモノクロ方式では、吸光度が1.0 を超える場合には、検量線の直線性を確認することが望ましいです。可能であれば、希釈等を行い、高い吸光度における定量分析は極力避けるべきです。溶液試料の場合、希釈操作によって試料の吸光度を調節することができますが、通常、希釈ができない固体試料の場合、試料そのものの透過・反射特性を得る必要があるため、ダブルモノクロ方式の分光光度計が特に重宝されます。

3. 分光光度計の測定応用例:6 価クロムの分析例

 欧州連合(EU)は、電子・電気機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関するRoHS 指令を2006 年7月1日に施行しました。本指令で使用制限対象となった有害物質として無機物質4成分(鉛、水銀、カドミウム、6価クロム)と有機物質2成分(ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテル)のうち、特にクロムのみが化学形態による使用制限が設けられ、6価クロムを選択的に検出することが求められています。6価クロムはクロムメッキや塗装等に含有しています。RoHS 指令に対応するために、製品や部品に6価クロムの含有量が基準値以下であることを示す必要があります。6価クロムはジフェニルカルバジドという発色試薬と錯体を形成し、赤紫色に発色します。沸騰水の中に試料を入れ、6価クロムを抽出した溶液にジフェニルカルバジドを加えて発色させることで、分光光度計にて6価クロムの定量分析を行います(図4)。

6価クロムの定量分析例

堀込 純/和久井隆行
((株)日立ハイテクノロジーズ)

2011年12月26日 公開

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