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分光蛍光高度計の原理と応用

1. 蛍光現象ついて

基底状態の分子は、励起光を吸収して励起状態へ遷移します。吸収した励起エネルギーの一部は振動エネルギーなどにより失活し、振動準位の低い位置に無ふく射遷移した後、そこから基底状態に戻るときに発せられる光が蛍光です。一方、三重項状態に無ふく射遷移し、そこから基底状態に戻るときに発せられる光をりん光と呼びます。三重項状態から基底状態への遷移は選択律によって禁止されているため、一般には、りん光寿命は10-4sより長く、これに対して蛍光寿命は10-8 ~ 10-9s のものが多いです。物質が光を吸収して再び光を発するまでの過程を図1に示します。物質に吸収された光の一部は、振動やそのほかのエネルギーとして失われるので、物質から発せられる蛍光の波長は、励起光の波長よりも長くなります(Stokes の法則)。

図1 分子エネルギー準位の模式図

図1 分子エネルギー準位の模式図

2. 分光蛍光光度計の原理

図2に分光蛍光光度計の構成例を示します。光源を出た光は励起波長選択部で単色光となり、試料に照射されます。試料から放射された蛍光は、蛍光波長選択部で目的の波長の光だけが検出器に入ります。ここで電気信号に変換され、蛍光強度に応じた信号がコンピュータに表示されます。光源としては、中圧水銀灯やキセノンランプなど、輝度の高いものが用いられます。スペクトル測定用には、連続光源であるキセノンランプが適しています。励起側波長選択部、蛍光波長選択部には、フィルタを用いるものとモノクロメータを用いるものがあります。試料を入れるセルは一般に石英セルを使用します。

図2 分光蛍光光度計の構成例

図2 分光蛍光光度計の構成例

測光方式(図3)は、励起光由来の散乱光の影響を少なくするための励起光に対し直角方向から測定する側面方式と、試料が固体や高濃度溶液の場合に用いることが多い表面方式があります。近年では、量子収率を測定するために積分球を用いる方式もあります。検出器には、微弱光を測定することに適した光電子増倍管が主流ですが、半導体検出器を搭載した装置もあります。

 

図3 蛍光光度法の測光方式図3 蛍光光度法の測光方式図3 蛍光光度法の測光方式

図3 蛍光光度法の測光方式

3. 蛍光分析の特徴と応用例

蛍光光度法では、スペクトルや蛍光の強度から定性および定量分析を行うことができます。スペクトルは、蛍光波長を固定して励起光(照射する光)の波長を走査することで、励起波長における蛍光強度の関係を表す励起スペクトル(図4a)と、励起波長を固定して、蛍光の波長を走査することで、蛍光波長における蛍光強度の関係を表す蛍光スペクトル(図4b)があります。励起スペクトルは、励起の過程で試料への吸収過程を経るため、一般に吸収スペクトルと類似したパターンを示します。

 

図4 励起・蛍光スペクトル図4 励起・蛍光スペクトル

図4 励起・蛍光スペクトル

波長走査速度の高速化に伴い、励起波長、蛍光波長および蛍光強度を三次元蛍光スペクトルとして取得することで、蛍光物質の波長特性を網羅的に把握することが可能となります。励起波長に相当する縦軸方向の断面は、蛍光波長が固定された励起スペクトルに相当します。また、蛍光波長に相当する横軸方向の断面は、励起波長が固定された蛍光スペクトルに相当します。等高線図で描かれる三次元蛍光スペクトルは、蛍光強度の分布が指紋状に見て取れることや、蛍光パターンが試料の特性を反映していることから蛍光指紋と呼ばれることもあります(図5)。

図5 三次元蛍光スペクトル

図5 三次元蛍光スペクトル

蛍光光度法は、吸光光度法に比べて一般に103倍以上高感度な分析手法です。さらに蛍光物質を測定対象とするため、前処理によって目的成分だけを蛍光物質に変えることにより、選択性に優れた極微量の分析手段として用いられています。蛍光強度は蛍光物質の濃度に比例するため、検量線を作成することで定量分析が可能です。

例えば、生化学分野では測定対象物と特異的に結合することで蛍光を発するプローブを用いた定量分析が行われています。また、細胞の機能を制御する物質として重要な働きを担っているCa2+イオンは、Fura-2 などの蛍光プローブを用いることで測定することができます。

材料分野では、蛍光物質の発光効率の指標となる量子収率の測定がなされています。量子収率は、吸収した光量子数に対して蛍光として放出された光量子数を割合で示します。例えば、白色LEDに使用される蛍光体は、80% 以上の高い量子収率を有しているものが実用化されています。

近年では、食品原材料などを対象として、試料に含まれる有機物などが発する蛍光パターンより得られる膨大な蛍光強度の数値データを多変量解析することで、試料の種別や産地の判別、試料の混合割合の算出、カビ毒などの危害物質の検知、機能性成分の定量などへの応用がなされてきています。例えば、図6に示すように、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦を原料とするでんぷんの蛍光指紋を俯瞰的に見てもその違いを見分けるのは容易ではありません。しかし、この測定結果を多変量解析(主成分分析)し、それぞれの試料の蛍光指紋データを主成分1と主成分2という座標の散布図にプロットして、主成分値の分散を確認することで、でんぷんの原料における種類判別が容易になります(図7)。

図6 各でんぷん原料の蛍光指紋図6 各でんぷん原料の蛍光指紋図6 各でんぷん原料の蛍光指紋

図6 各でんぷん原料の蛍光指紋

図7 でんぷん原料における主成分分析結果

図7 でんぷん原料における主成分分析結果

このように、蛍光光度法は、ライフサイエンス、バイオテクノロジー、工業材料(白色LED、有機EL)、食品など多様な分野での研究、開発、品質管理などに用いられる分析手法です。また、分光蛍光光度計により得られたデータを先に示した多変量解析などを活用することで、新たな知見が得られる可能性を持っています。

 

堀込 純
(株式会社日立ハイテクサイエンス)

2018年1月30日 公開

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