電磁波で見える世界

概要

 物質の性質や量などを調べるため、分析機器の多くが赤外線、可視光線、紫外線、X線などの光を用いています。物質に照射した電磁波が反射、透過、吸収する際、波の強さが変化したり、あるいは別の電磁波を発したりします。このような電磁波の波としての性質を利用した分析法を光分析と総称します。本編では、まず電磁波の概要、物質と電磁波の相互作用を解説し、機器分析の基礎についての理解を深めて頂きます。



 機器分析によって物質の性質や量を調べるとき、その原理には、電磁波の波としての性質が深く関わっている。この分野が分光学(Spectroscopy)であり、その解説の最初には、ニュートンの発見、「太陽光がプリズムによって7色の虹に分けられる」を引用するのが慣例である。曰く、「基本色は赤・黄・緑・青・菫(すみれ)で、それに橙・藍があり、その中間に無限の変化がある」。光は電磁波であり、電磁波は波である。波はエネルギーを持つ、と同時に電磁波は粒子でもある。物質に波が当たると相互作用が起こり、その結果として透過、吸収、反射、散乱、回折等々、様々な物理現象が起きる。分析機器の殆どが、その測定原理に、電磁波の波としての性質を利用している。

波長と電磁波の種類

 波の単位の一つが波長であり、波の一周期分の長さを表す。電磁波は、波長でいうところの10 km ~ 10-6 nm の波の総称である。長い方から電波、光、X線、γ線という。電波には低周波、超長波、長波、中波、短波、超短波、マイクロ波がある。電波がテレビ・ラジオなどの無線通信に用いられるのは、進行方向に障害物があっても波が伝わりやすいという性質による。光は数 mm から数nm の範囲の波を指し、波長の順に赤外光、可視光、紫外光と呼ぶ。X線は波長が1nm 以下の波、γ線はさらに短い10pm 以下の波を指すが、厳密にはその発生メカニズムで区別する。X線、γ線は光に比べ、物質との相互作用が少なく、物質を透過しやすい性質から、X 線撮像(レントゲン写真やX 線CT)に用いられる。このように、原子・分子・高分子など、ある大きさを持った物質に、ある波長の波を当てることによって生じる相互作用を、その物質からの「波の応答」として観測する。

 観測された波の応答は、物質ごとに特有のパターンを示すことがわかっている。ここで波の性質として波長を横軸にとり、縦軸に波の強度(強弱)をプロットする。こうして強度を波長軸に展開して得られた2次元図が「スペクトル」である。19 世紀、光が電磁波の一部であることが明らかとなって以来、電波からγ線まで広く波を利用してスペクトルを得る試みがさかんに行われた。そして得られた発見は、①スペクトルは物質に固有の形状を示し、②縦軸の強度が物質の量(濃度)を反映する、の二点である。現在のように、機器分析が物質の定性・定量に広く利用される端はここに発している。

 物質と波との相互作用は、大きく、反射・透過・吸収の3通りである。見方を変えると、①散乱・回折・干渉・屈折などの波としての応答と、②熱・化学反応・イオン化・光電効果など、物質が波のエネルギーを吸収して生じる応答、の2つに分けられる。
 量子力学により、「スペクトルは、原子や分子の離散的なエネルギー準位に対応する」ことが示され、分光法はさらに広く「スペクトルによって物性を測定あるいは物質を同定・定量する方法の総称」となる。光やX線を用いた分光法では、光学結晶(プリズム)や回折格子を用いて波を波長ごとに分散させ、スリットで波長を選別している。一方で電子分光や質量分析などといった分析法では、光学素子の代わりに電磁場を用い、そこを通過する電子やイオンなどの荷電粒子を運動エネルギー別に分離する。「波を波長ごとに分散させる」ことと、「荷電粒子をエネルギー別に分離する」ことが、スペクトルを得るという目的上、概念として等価となった。考えてみれば、波長から周波数、波数、エネルギーなどの単位への換算は容易である。こうして核磁気共鳴法や質量分析法などの電磁気分析法が、広義の分光法に包括されることとなる。

プリズム及び回折格子を用いた分光器の原理

 電波を利用した分光法にはサブミリ波分光法、テラヘルツ分光法などがある。地球大気や天体観測には古くから電波が利用され、地球環境の例では、大気レーダーによるオゾンやCO2 の対流の観測がある。光を用いた分光法には、吸光分析法、発光分析法、光散乱分光法、光電子分光法など、様々な方法がある。X 線を利用した分光法では、蛍光X線法、X線回折法、X線透過法がある。γ線はシンクロトロン放射光を発する加速器研究施設で利用されるほか、宇宙観測や天体物理学にも利用されている。

技術委員会 長谷川勝二
(日本分光(株))

2011年12月26日 公開

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