有機フッ素化合物(PFAS)規制化の最新動向
1. はじめに
有機フッ素化合物の中で、生物蓄積性や毒性の懸念のある物質としてPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、C9-C21 LC-PFCA (長鎖ペルフルオロカルボン酸)、これら物質群の塩及びその関連物質は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants: POPs条約)の下で廃絶もしくは制限が採択されている(2025年11月現在)。POPs条約とは、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念される物質の製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約である。評価対象とされた化学物質は、残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)によって①スクリーニング、②危険性に関する詳細検討(リスクプロファイル)、③リスク管理に関する評価の検討の3段階のプロセスを経て附属書 A(廃絶)、附属書 B(制限)、附属書 C(排出管理)等の特定と個別適用除外候補について検討のうえ、締約国会議(COP)に勧告される。COPにおいて附属書への追加が採択されると、附属書が発効されるまでの間(国連事務局が各締約国に通報してから1年後)に各締約国は国内で担保するための所要の措置を講ずる。日本も同条約に批准しており、審議のうえ化学物質審査規制法(化審法)に基づく第一種特定化学物質の指定等を行う。
さて、一部の国と地域では、上記POPs条約で評価・制限された4物質群とその他の多くの有機フッ素化合物を同等とみなし、PFASという総称で規制対象とする提案が検討されている。これらの検討中のPFAS規制について、欧州におけるPFAS制限案の進捗と米国の連邦政府および各州の動向について説明する。
2. PFASとは
PFASは、Per-and poly fluoroalkyl substances ペルフルオロ/ポリフルオロアルキル化合物の総称で、世界で統一された定義は定められていないが、化学構造中に-CF2-または-CF3を持つ10,000を超える有機フッ素化合物の物質群を指すことが多い(無機フッ素化合物はここには含まれない)。その特性は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、難燃性、非粘着性等があり、塗料、保護フィルム、電線被覆材、電気通信機器、冷媒など幅広い用途で使われ、半導体、電機通信、輸送、医療、建築インフラ、冷凍空調分野等の我々の日常生活に欠かせない製品に幅広く使用されている。また、それらを製造するための生産ラインの部材や部品にも多く使われている。
3. 欧州のPFAS規制化動向
1) 制限提案
2023年2月に欧州5か国(ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)によりPFASに関する制限提案が作成され、欧州化学品庁(以下ECHA)により公開された1)。その制限提案は、PFASは環境中で難分解性であり、放出を抑えなければ人々の健康と環境に悪影響を及ぼすレベルに達する懸念から、その影響力に対する十分な科学的根拠はないが、予防原則(人の健康、環境に対する深刻かつ不可逆なリスクがあると予想される場合、因果関係について十分な科学的確実性がなくとも、完全な科学的証拠がそろうのを待たずに、費用対効果を考慮した上で事前に予防的措置を取るリスクマネジメントの方策)に則って、全てのPFASを1つのグループとして製造や使用を規制すべきという内容である。

制限提案のPFAS定義2)「PFASは、少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子(水素/塩素/臭素/ヨウ素 原子が直接結合していない)を含むフッ素化物質として定義される」 に該当するほぼすべてのPFASに対して、一部の用途に猶予期間(5年間或いは12年間)を設けてはいるものの、最終的に全廃を求めるというものである。仮に規制された場合、EUのみならずEUとの貿易関係のある国々にも影響が及ぶこととなり、その社会経済的影響が大変大きいことが容易に想像される。
制限提案はREACH規制の制限プロセスに則り、2023年3月にパブリックコンサルテーション(以下パブコメ)が実施され、5,600件を超えるコメントがEU域内のみならず日本を含む海外からも提出された3)。
2) ECHA専門家委員会による審議
パブコメ期間と並行して専門家委員会(リスク評価委員会:RAC /社会経済性分析委員会:SEAC)4)による審議が始まった。専門家委員会では、制限対象の物質の多さと影響を受ける産業分野および用途が多岐に及ぶことから、セクター毎に議論が進められており、図2に示す通り2025年11月時点で13のセクターが暫定的結論に達している。ただし、暫定的結論の詳細については全セクターの審議が終了するまで公開されず、現在のところはまだ不明である。2025年末までに残りの 電子機器/半導体、PFAS製造、横断的課題(horizontal issues)等の審議が完了する予定である5)。

3) 欧州化学産業行動計画
2025年7月に欧州委員会が欧州化学産業行動計画を発表した6)。主たる内容はレジリエンスの強化、エネルギー供給確保と脱炭素化支援、市場とイノベーションのリーダーシップ、規制枠組みの簡素化と効率化、といったものであるが、ECHAにおけるPFAS制限提案評価、PFAS関連施策についても言及されている。PFAS制限提案については欧州委員会では消費者用途におけるPFASの禁止を検討していること、性能と安全性の面で適切な代替品が利用できない場合には戦略的分野における重要な用途において、適切な代替品が見つかるまで厳格な条件下でPFASの工業用途の継続使用を認める可能性があること、例外措置は製品のライフサイクルの全段階における排出削減要件を伴う必要があることが述べられている。また、EU全体を対象とした新たなPFAS監視の枠組みを開発し、情報の一元化や汚染ホットスポットの特定、浄化事例の共有などの対応をとるといったことが述べられている。
4) 制限提案の更新
2025年8月にECHAはPFAS制限提案を提出した欧州5か国が作成した背景文書(Background Document)を発表した7)。これは2023年2月に出された制限提案の更新版である。更新の主なポイントは2つあり、1つ目は新たに8つのセクター(印刷用途、シーリング用途、機械用途、医薬品包装/賦形等の追加の医療用途、軍事用途、爆薬用途、テクニカルテキスタイル用途、溶剤や触媒等の幅広い工業用途)が追加されたことである。2つ目はこれまで提案されていた全面禁止や時限的例外措置に伴う禁止に加えて、リスク管理が可能な場合に市場投入や使用継続を認める新たなオプション(RO3)を特定のセクター(PFAS製造、輸送、電子機器および半導体、エネルギー部門、シーリング用途、機械用途、テクニカルテキスタイル用途)に対して検討するというものである。また、時限的例外措置に伴う禁止に関しては、今回の背景文書により対象が大幅に追加された。そして第4項では無制限の適用除外項目について記載されているが、中古品、交換部品、原材料、研究開発、再生品などが追加されており、さらにPFASの製造についても、排出管理を条件とした適用除外が提案されている。
5) 今後の全体のスケジュール
前述の通り、2025年末までに残りのセクター審議を終了し、2026年3月にSEACの最終草案が出され、その後すぐに2回目のパブコメ(60日間)が予定されている。その後ECHAの最終意見が2026年末までにECHAから欧州委員会に提出される。それを参考に欧州委員会よりPFAS規制案が示され欧州議会・欧州理事会との協議・合意の後、最速で2028年頃に制限の決定が官報で公布される可能性がある。
4. 米国のPFAS規制化動向
1) 米国連邦政府
リスク評価に基づいた多面的な取り組みが展開されており、欧州のPFAS制限案とは異なるアプローチを取っている。2021年に米国環境保護庁(EPA)が公表した包括的なPFAS戦略ロードマップ8)は、研究、規制、環境改善の3分野に焦点を当て、EPAが継続的に実施すべき具体的なアクションを設定している。研究の分野での主な取り組みでは、TSCA 8条(a)(7)のデータ収集規則がある。2023年10月に最終規則が公表され、2011年から2022年内に米国国内でPFASを製造・輸入した者に対し、2026年4月から6ヶ月間、または12 ヶ月間(小規模事業者に該当する場合)以内の報告を義務付けた。これにより、米国内のPFASの実態把握とリスク評価が進むとされている。なお、EPAはPFAS報告要件をより実用的かつ実施可能にし規制負担を軽減するため、混合物や製品に0 . 1%以下で含まれるPFASの製造(輸入を含む)、輸入された成形品、一定の副生物、不純物などを報告の対象から免除することを提案している9)。また、国家PFAS試験戦略ではPFASを構造、化学・物理特性および現在入手可能な毒性データに基づいて分類し、製造者等に追加試験を命じた上で結果を報告させ、PFASの詳細分類に活用する。最終的にPBT(Persistent難分解性、Bioaccumulative高蓄積性、Toxic毒性)判定を行い、規制対象物質を明確化する方針である。
他方で米国国防権限法(NDAA: National Defense Authorization Act)の下、国防総省からは国家安全保障に重要なPFASに関する報告書を連邦議会の上下軍事委員会へ提出、2025年7月に改訂を行った10)。PFASの特性と暴露経路を考慮したリスクベースのアプローチによる定義を検討すべきであり、国家安全保障に不可欠なPFASの供給能力の確保が必要であると結論付けている。米国エネルギー省では2023年のフロロポリマーのライフサイクル評価(LCA)に関する報告書11)の中で、航空宇宙、自動車、電池、建築、半導体、インフラなどの分野における使用に関する分析を含めており、国の安全保障と経済成長を重視する上で必要なPFASを擁護する動きもある。
2) 米国の州ごとの規制化動向
2025年11月現在、EPAのサイトには21州における「PFOA、PFOSおよびその他のPFAS」対応の取組みが掲載されている12)。PFAS戦略ロードマップの公表前後から飲料水の水質や環境への排出、土壌汚染から、カーペット、繊維製品、食品包装、子供向け製品などの消費者向け製品へと規制対象が移ってきている傾向にあったが、メイン州では、2021年7月に不可欠用途以外の使用を段階的に廃止する法律(LD153713))が成立した。2023年1月からPFASの使用についてメイン州当局への報告が開始され、2030年以降、現在不可欠な用途(CUU: Currently Unavoidable Use)以外は使用禁止という内容であったが、当初より各業界団体や企業からの報告期限延長の要請が多数挙げられたこと、実施規則の策定が遅延していたこと等の影響を鑑み、一部議員からの改正案が出された結果、2024年4月の改正法では規制対象からの除外用途の新たな追加や2040年以降の不可欠用途および除外用途を除く全てのPFAS含有製品の販売禁止等を規定する内容となり、再修正ののち運用コンセプトペーパーが公表されている。2026年1月より規制対象となる消費者用途のうち、洗浄製品容器の内部カートリッジバルブと通気口付きキャップライナーがCUUとして承認を受けている。ミネソタ州においても同様に段階的全面禁止法案(HF231014)、通称アマラ法)が成立済みであるが、製品へのPFAS含有の報告義務の期限が2026年7月1日まで延長されている。ニューメキシコ州では全面禁止法案が成立したものの、ポリマーが適用除外とされている(HB21215))。カリフォルニア州においては全面禁止法案が審議されていた中、規制対象を消費者向け用途6品目に限定し州議会で可決されたが、州知事が署名を拒否したため不成立となった(SB62816))。このように複数の州がPFAS全面禁止を提案したものの、ミネソタ州を除きいずれも用途を縮小し採択または審議中、もしくは廃案または法案策定停滞の状態となっている。
5. PFAS分析
本稿3. 5)にて言及したEUのPFAS制限提案背景文書において、2. 5. 3.項で分析手法について制限提案国の考えがまとめられている。ターゲット分析は各物質を個別に精度よく定量測定をすることが可能であるが、標準物質を必要とするため測定対象が現時点では40から60物質にとどまる。今後利用可能な標準物質の種類が増えていくことで測定対象の拡大が期待されている。TOP(Total Oxidizable Precursor)アッセイは前駆体PFASを酸化分解し、ターゲット分析で測定可能にする手法である。環境中の加速分解を模擬することで広範囲な物質の測定が可能となる。全フッ素分析ではポリマーPFASなど、標準物質が存在しないPFASも検出可能であり、他の手法と比べて短時間かつ低コストで分析可能であるものの、含フッ素有機物質がPFAS由来であるか非PFAS由来であるかの識別が出来ない。また、2. 5. 5.項では現在開発中の手法としてPy-GC/MS、19 F NMRがとりあげられている。それぞれの分析法の欠点を補うため、複数の手法を組み合わせることでより多くの種類のPFASを定量的に測定することが可能になると述べられている。詳細については背景文書Appendix E. 4. 1およびE. 4. 2を参照されたい。
PFOS、PFOA、PFHxS、C9-C21 LC-PFCAの4物質群(以下、特定PFAS)がPOPs条約において規制対象となっている一方で、フッ素ポリマーについては性状が異なるため包括的なPFAS規制の議論から分けて検討すべきとの考えがイギリス、カナダおよび米国の一部の州で提案されている。また、本稿3. 5)にて述べた通りEUのPFAS制限提案背景文書においてもPFASの製造に関しては適用除外が示されており、フッ素ポリマー中の特定PFASを定量的に識別できる分析法、またその前処理条件確立の重要性が増している。繊維製品等に含まれるPFOSの分析のための前処理としてCEN/TS15968(メタノールを用いた60℃・2時間の超音波抽出)が規定されているが、フッ素ポリマー成形品は緻密な構造を持つため、既存の抽出条件では試料内部への抽出溶媒の拡散が制限される可能性がある。試料を粉砕し、比表面積を高めることで抽出効率を改善する方法が考えられるが、フッ素ポリマーが粉砕などによるメカノケミカル反応により分解し、本来含有していなかった分解生成物が検出され得ることが報告されている17) 18)。現在、令和7年度 経済産業省 国際ルール形成・市場創造型標準化推進事業として「成形品材料における特定PFAS含有分析の信頼性向上:定量方法及び測定試料調整法に関するJIS開発」のテーマでFCJが統括し標準化に向けた検討を進めている19)。

6. 最後に
総称であるPFASには10,000種類以上の物質が含まれているが、冒頭で述べた通りPOPs条約において規制されているものはPFOS、PFOA、PFHxS、C9-C21 LC-PFCAの4物質群である。
近年、PFOSおよびPFOAが代表的なPFASという表現の報道が散見されており、全てのPFASがPFOSやPFOAのように毒性や生物蓄積性などの懸念があるという誤った認識が拡散することを懸念している。このため、日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)では、POPs条約で規制対象とされた物質を「特定PFAS」と呼称し、フッ素ポリマーやフッ素ガスなど、他のPFASと区別していくことを提唱している20)。











